溶媒抽出とマイクロ波 NEWマーク

マイクロ波を用いた加熱溶媒抽出では、目的物質や溶媒に直接エネルギーを与えるため、溶媒の迅速加熱や目的物質の拡散速度向上によって効率の高い処理が可能となります。例えば、植物などの含水試料では、細胞自体をマイクロ波で破壊して目的物質を抽出する方法も研究されています。

ここでは、抽出方法としてマイクロ波を用いる、マイクロ波溶媒抽出法に関して、ご説明します。

溶媒抽出とは?

溶媒抽出とは目的物質を含む試料から目的物質を分離する操作の1つです。目的物質を含む試料を溶媒に接触させることにより、目的物質を溶媒中に溶解させます。さらに溶媒と試料を分離することにより、目的物質のみを分離させることもできます。茶葉からお茶を淹れることも、溶媒抽出といえます。
化学分析では、主に固体試料と有機溶媒を用いる固液抽出が多く用いられています。抽出操作で得られた目的物質の定性または定量分析として、GC,GC-MS,HPLCなどが利用されており、これら有機分析装置のための前処理法として、溶媒抽出処理が挙げられます。

酸分解処理との違い

無機酸試薬を用いた酸分解処理は、主に無機元素分析のための前処理法として利用されます。対して有機溶媒を用いた溶媒抽出処理では、多くの目的物質は有機化合物です。下記の表では、両者の目的と操作の違いを示しています。

  溶媒抽出 酸分解
目的 化学分析の試料前処理法
対象物質 有機化合物(分子) 無機元素(原子)
使用試薬 有機溶媒 無機酸
試薬との反応 物理変化(溶解・軟化) 化学変化(分解)
試料主成分の変化 残存 消失(完全溶液化)
分析装置 HPLC, GC, GC-MS AAS, ICP-OES, ICP-MS

例えばプラスチック中の臭素系難燃剤のひとつであるポリ臭化ビフェニル(PBB)は、溶媒抽出ののちGC-MSにて分析を行ないます。対して酸分解処理の場合では、処理溶液中の臭素(Br)をICP-OESなどで分析します。この場合、PBB以外の臭素系難燃剤も一括された状態で定量されます。
また溶媒抽出液は、粗抽出液とともにプラスチックの溶解残渣が存在するため、別途ろ過または遠心分離操作を行なう必要があります。酸分解処理ではプラスチック自体が完全に化学分解されるため、残渣のない処理溶液を得ることができます。
従って、試料に含まれる有機化合物を同定・個別定量する場合は溶媒抽出、無機元素の定性・定量分析には酸分解処理をそれぞれ実施することが重要といえます。

溶媒抽出条件における重要項目

溶媒抽出における処理条件を確立するうえで、以下の項目が重要となります。
これらをどのように制御・管理するかによって、分析結果が大きく変わるといえます。

溶媒の選択

対象物質に対して溶解度が高い溶媒を使用する必要があります。
対象物質の極性または疎水性などを考慮し、複数の溶媒を組み合わせることも有効です。
ただし試料自体の主成分自体が目的成分の分析を阻害する場合、試料に対して貧溶媒を用いることもあります。

加熱温度

主に使用溶媒の沸点以上の温度条件で抽出処理を実行します。
加熱温度が高いほど対象物質や試料の溶解度は高くなりますが、過剰の温度は対象物質が熱破壊される懸念があります。
またマイクロ波溶媒抽出法では、密閉容器を用いた高圧処理が可能であるため、溶媒の沸点を超えた高温雰囲気下で処理を行ないます。

処理時間

高濃度の対象物質を含む、または低い溶解度を有する試料である場合では、長時間処理を必要とします。
一般的に高温雰囲気下での処理を長く保持することで、対象物質の抽出効率が向上されます。

溶媒量

試料重量に応じて溶媒使用量を調整します。このとき試料全体が溶媒に十分浸漬される程度の溶媒量が必要となります。
多量の溶媒量は抽出効率を高める一方で、機材の大型化、溶媒自体の加熱効率低下、溶媒消費量および廃液発生からのコスト圧迫が懸念点となります。
したがって分析機関や試験所では、必要最小限の溶媒量で十分な抽出効果を得られる溶媒抽出法が望ましいといえます。

試料の形状

試料全体の表面積が大きいほど溶媒に直接接触されるため、抽出効率が高くなります。
特にプラスチックや汚泥などの固形物は、可能な限り微細化し、粒径を均一化することで、抽出結果の併行精度を高める効果もあります。
また水分を含む試料では、水分が溶媒抽出を阻害する場合、あらかじめ乾燥させることも重要です。

撹拌/振とうの有無

抽出効率を高めるために撹拌や振とう操作は有効です。マグネチックスターラーなどを用いた連続撹拌は、試料と溶媒との接触機会を増加させる効果が期待できます。 また重量が大きく堆積しやすい試料の抽出処理では、撹拌/振とう操作を行なう必要性が非常に高いといえます。

マイクロ波とは?

そもそもマイクロ波とは?

マイクロ波とは電波の一種です。波長は1m~100µm、周波数は300MHz~3THzとされています。このうち、2.45GHz(波長12.2 cm)は加熱手段へ利用され、身近なところでは電子レンジに応用されています。

マイクロ波と物質との相互作用

物質がマイクロ波を吸収すると、得られたエネルギーが熱に変換され、物質が加熱されます。水や無機酸試薬(硝酸など)の極性物質はマイクロ波を吸収するため、加熱媒体となります。その一方で、金属はマイクロ波を反射し、フッ素樹脂やガラスといった無極性物質はマイクロ波を透過するため、加熱されません。

マイクロ波の吸収

吸収

マイクロ波の反射

反射

マイクロ波の透過

透過

溶媒抽出処理で用いられる各種有機溶媒は、その分子極性によってマイクロ波吸収効率が大きく異なります。
純水やアルコールといった極性分子はマイクロ波との相互作用が強く、マイクロ波によって迅速に加熱されます。一方でヘキサンやクロロホルムといった無極性分子では、分子内の電荷に偏りが無いため分子運動が生じません。そのためマイクロ波を照射してもほとんど加熱されません。
従ってマイクロ波溶媒抽出法では、使用する有機溶媒の分子構造を把握することも重要なポイントになります。

マイクロ波溶媒抽出法

マイクロ波を加熱源として溶媒抽出処理に活用した手法が、マイクロ波溶媒抽出法であり、米国環境保護庁(EPA)にて規定されている公定法 SW-846 Method 3546 に準拠しています。
マイクロ波溶媒抽出法では、以下の利点が挙げられます。

高圧高温処理による抽出効率向上および時間短縮

密閉容器を用いた処理では、溶媒の沸点を超える温度雰囲気下で抽出処理を行なうことが可能です。溶媒の粘性低下および目的物質の拡散速度向上によって、従来は数時間を要する抽出であっても分単位に短縮させる効果が期待できます。

精密な温度管理

マイクロ波溶媒抽出法では、抽出条件のひとつである加熱温度を精密に計測・管理します。非接触型温度計にて測定された溶媒温度をもとにマイクロ波照射量を自動的に調節するPID式制御方式を採用します。これによって、溶媒の突沸や過剰加熱・加熱不足を防ぐとともに、安定した高温雰囲気での処理を実現します。

ランニングコストの削減

溶媒抽出法のひとつであるソックスレー抽出法では、1回あたりに数百mLの溶媒量を用いて、数時間の加熱処理を必要とします。
マイクロ波溶媒抽出法は、密閉容器1本あたり少量の溶媒(標準15mL)で1時間以内での処理を行なうことが可能です。少量溶媒での処理は、高濃度の目的物質を含む抽出液を調製できるとともに、詳細分析後に発生する廃液量を大きく削減できます。また、短時間処理に伴う分析者の拘束時間の削減にもお役立てします。

処理の再現性

同時に複数本の密閉容器を使用するマイクロ波溶媒抽出法では、すべての容器が精密に温度管理され、効率の良い加熱抽出が進行されます。
そのため、各容器の結果に高い再現性が確保されます。加熱抽出条件が設定された処理メソッドは、それぞれの試料組成や目的物質、使用溶媒によってカスタマイズできます。

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