技術情報

マイクロ波抽出関連

マイクロ波試料前処理装置を用いた六価クロム抽出処理のご紹介

はじめに

RoHS規制有害物質に関する分析法の国際標準規格IEC62321は、2017年3月より六価クロム(Cr(VI))の詳細分析方法が追加されました(IEC62321-7-2 Edition1.0 2017-03)。そのなかで、組成不明のポリマーおよび電子部品中の六価クロム抽出操作として、マイクロ波試料前処理装置を用いた溶媒抽出処理が記載されています。
本件では、当記載内容に基づく六価クロム分析の詳細および操作ポイントについてご紹介します。

溶媒抽出を行う前に

サンプルの組成確認

組成が未知の場合、まずはFT-IRなどによってポリマーの種類を判断します。例えば、ABS樹脂、ポリカーボネートまたはポリ塩化ビニルの場合には、マイクロ波溶媒抽出処理とは別の前処理操作にて六価クロム分析を行います。
電子部品のような様々な材料の混合物では、マイクロ波溶媒抽出処理の対象となります。
また、対象サンプル中にアンチモン(Sb)が含有されていないことを確認する必要があります。これは、共存するSbがCr(VI)のジフェニルカルバジド発色を阻害するためです。Sbの含有有無は、Cd,Pb,Hg分析用の酸分解溶液を用いて、ICP-OES, ICP-MSなどによる定性判別が可能です。
下記にSb濃度による発色阻害の度合いを示します。Cr(VI)に対して10倍濃度のSb溶液では、回収率が50%程度に低下してしまいます。

Fig.1
サンプルの形状

溶媒抽出処理において、サンプル形状は目的成分の抽出結果に影響を与えます。IEC62321-7-2では、あらかじめサンプルを粒径250µm以下の粉末にする必要があります。凍結粉砕機などを用いてサンプルを粉末化したのち、ふるいで均一な粒径のサンプルを調製します。均一な微細粉末状サンプルとすることで、試料の均質化や溶媒との接触面積を増やして抽出効率を安定させることが可能となります。
なお粉砕・粉末化作業の際に、ステンレス製やクロムメッキされた工具類ではなく、クロムフリーの材質を選択・使用してください。

マイクロ波溶媒抽出処理

弊社マイクロ波試料前処理装置は、酸分解処理に併せて今回の溶媒抽出処理にも対応可能です。
セグメンテッド高圧ローターHPR-1000/10やセグメンテッド中圧ローターMPR-600/12をそのまま使用できます。ただし、サンプルおよび溶媒に接触するTFM容器およびTFMカバーのみは酸分解との併用はできません。容器に残存する酸試薬によってCr(VI)の価数変動、抽出溶媒との化学反応が生じる恐れがあるためです。なおMilestoneではTFM容器のほか、ほうケイ酸ガラス製容器を採用したローターでも本法に対応頂くことが可能です。
1検体あたり容器2本を用意し、粉末化したサンプル0.15g、および溶媒試薬((2w/v% NaOH + 3w/v% Na2CO3) 10mL + トルエン 5mL + 無水MgCl2 400mg + 1mol/Lリン酸緩衝液 0.5mL)をそれぞれの容器内に添加します。そのうち1本には、Cr(VI)標準液を添加し、添加回収試験用とします。
IEC62321-7-2では、処理条件として溶媒温度150~160℃にて90分間加熱する旨が記載されています。従って、下記の通りに内部温度センサー機能を用いて、容器内部温度を管理するプログラムを実行し、十分な冷却後に抽出液を回収します。

Fig.1

4. 抽出処理後の操作

抽出液は水層(アルカリ溶液)と有機溶媒層(トルエン)に分かれています。Cr(VI)は水層側に溶存しているため、抽出液から水層のみを採取する必要があります。IEC62321-7-2では分液漏斗(Separatory Funnel)を用いていますが、下記写真のとおり、水層部分のみを回収することは非常に煩雑な作業を伴います。

Fig.1

従って、Milestoneは簡単に水層を採取する操作をご案内します。
まず抽出液全量を遠沈管に移し替えたのち、遠心分離にて浮遊物やサンプル残渣を沈積させます。次にパスツールピペットにて上層のトルエンを採取し、残りの水層を吸引ろ過によって残渣を除去します。
アルカリ溶液は粘性や懸濁物を有するため、自然ろ過では長時間を要してしまいます。
0.45 µmメンブランフィルターを用いた吸引ろ過では、1検体あたり約2分間で水層と残渣を分離できることが確認されました。

Fig.1

ろ過後の水層について、pH調整を行います。
まずはHNO3にてpH=7.5±0.5としたのち、H2SO4にてpH=2.0±0.5とします。pH変動によって、溶液が懸濁または着色した場合には、ODSフィルターを用いて分離除去してください。懸濁や着色はプラスチック材料や顔料試料などで生じることが考えられます。
最後にジフェニルカルバジド溶液にて発色処理させたのち、UV-visにて吸光度測定を行います。
Cr(VI)およびジフェニルカルバジド発色の安定性を考慮し、マイクロ波抽出処理後に速やかに測定まで実施することをお奨めします。

測定結果の評価

本法における測定値の評価は、主に添加回収試験を行い、Cr(VI)を添加したサンプルの回収率基準として75~125 %であることが記載されています。 溶媒抽出操作においては、無機元素分析用途での酸分解処理と異なり、必ず処理残渣が存在します。さらにサンプル組成、形状およびろ過等の精製操作によって回収率が低値となる場合が考えられます。従って、実際の操作手順を考慮したうえで、測定結果を評価することをお奨めします。

※本実験は、株式会社環境アシスト様のご協力のもとで行いました。

※マイクロ波試料前処理装置による六価クロム抽出処理に関して、ご興味がございましたら弊社までお気軽にお問い合わせください。

ドキュメント

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